2012年12月27日木曜日

ある少年の物語

あるところに、サッカーがとても好きな男の子がいました。

男の子の夢はプロのサッカー選手になることでした。毎日毎日、誰よりも一生懸命に練習をしました。

中学校でも、高校でも、サッカーひとすじの学校生活を送りました。

でもチームは地域大会の三回戦より先に進むことはできませんでした。

あっという間に引退試合を迎え、ボールを蹴る時間も減り、「プロのサッカー選手になる」という幼い頃の夢も、いつしか色褪せてゆきました。

そうして月日は流れました。

大人になった男の子は、建設会社に勤めていました。

ボールを蹴っていた足で現場を歩き、フィールドを俯瞰していた目で、現場を俯瞰する日々です。

そんなある日、地元にサッカースタジアムができることになりました。施工を請け負うことになったのは、彼が勤める建設会社です。

大好きだったサッカーの、スタジアムの建設にたずさわることができる…!

今は大人になったかつての少年は、毎日毎日、心を込めて必死で働きました。

自分が叶えることのできなかった夢を実現させた選手達が、最高のパフォーマンスを見せられるように。

そして選手にとっても、応援に駆けつけるサポーター達にとっても、居心地のよい、文字通り「ホームグラウンド」になるように。

晴れの日も、雨の日も、暑い日も、寒い日も。毎日毎日、完成図を心に描きながら、一歩一歩、積み重ねてきました。

そしてとうとうスタジアムが完成し、こけら落としの日を迎えました。

もちろん、彼もチケットを入手し、観戦に駆けつけています。

大好きだったサッカーに、仕事を通じてたずさわることができた…。

感無量の彼の隣には、かつての自分にそっくりな少年が、目をキラキラさせながら笑顔を浮かべていました。

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